「ある奴隷少女に起こった出来事」を読んだ
あまりにショッキングな内容のためフィクションだと考えられていた本が、歴史的な検証の結果ノンフィクションであるということが判明し大きな話題を呼んでいる。
ネタバレあります。
偶然の発掘
「Incidents in the Life of a Slave Girl」というタイトルで1861年に出版された本書は匿名での出版であったという経緯もあり100年以上にもわたって日の目を見ることが無かった。
しかしある偶然と歴史研究家の努力により著者が判明し、また登場する人物の実在や事実関係の証明が行われた。
あらすじ
奴隷としては比較的恵まれた境遇にあったリンダは女主人の死を受けて新たな主人の下へ移ることとなる。
新たな主人は白人の好色なドクターで、年頃となったリンダに言い寄る。
ドクターの妻は嫉妬からリンダに辛く当たる。
ドクターの要求から逃れられないと悟ると、望まぬ妊娠をするくらいならと別の白人男性の子を身ごもる。その後は逃亡しアンネ・フランクのように屋根裏に身を隠し機を見て奴隷制を廃止している北部へと落ち延びる。
奴隷制度を知る機会として
この本で奴隷という過酷な立場に置かれる人の生の声をはじめて聞いた気がする。
学校教育では奴隷制があったという歴史は当然学ぶ。
人権を学ぶ上でも奴隷制に関して知る機会がある。
しかし本当は何も学んでいなかった。そんな気にさせられた。
奴隷という言葉の重み
奴隷という言葉の持つ重みを改めて知った。
そして巷に溢れる奴隷という言葉がいかに軽いかということを思い知った。
奴隷という言葉が海外でどれだけインパクトを持つかということもよく理解できた。
例えば従軍慰安婦をSex Slaveと訳すことの意図(良し悪しはともかく)など。
そして奴隷という表現が社会の中で安易に使われすぎているようにも感じた。
社会批評などを読むと「奴隷的に扱われている」「奴隷のようにこき使われ」「会社の奴隷として」といったフレーズをよく見かける。
しかし奴隷という言葉を使って表現されるものが、実際に奴隷的であると感じることが随分と減った。
まとめ
この本は奴隷制の歴史を知る為の本ではない。
奴隷制の中に居た一人の女性の回想録だ。
けれど、この本を読まずして奴隷制度の歴史を学ぶことは出来ないのではないか。
そんな気にさせられる一冊でした。